事業承継は企業の将来を左右する非常に重要なイベントです。特に、自社ビルや工場用地などの不動産を保有している企業では、相続税や譲渡所得税、管理費用、資産評価などの観点で慎重な検討が求められます。
後継者を選定し、事業体制を維持するだけでなく、不動産の適正な承継方法や税制メリットを活かした対策を行わないと、経営に悪影響を及ぼす可能性があるためです。
日本では中小企業の事業承継問題が深刻化しつつあり、後継者不足が続く一方で、企業が長年保有してきた不動産の扱いも大きな課題となっています。自社の事業形態や財務状況によっては、不動産を活かしてキャッシュフローを改善する選択肢もあれば、逆に固定資産が多すぎることが承継時のリスクになるケースも考えられるでしょう。
ここでは、事業承継に不動産が果たす役割や、不動産評価の基本、相続税・事業承継税制を踏まえた対策、さらには承継スキームの多様性や実際の成功事例を解説します。和歌山市など地方都市における事業用不動産の特徴も盛り込みつつ、円滑な事業承継と節税・資産活用の両立を目指すためのヒントを提供しますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
事業承継における不動産の重要性

事業承継では、企業を次の世代へ引き継ぐ際に組織体制や経営戦略、資金繰りなど多角的な検討が必要とされますが、その中で不動産をどう扱うかは非常に重要なポイントです。
特に、中小企業や家族経営の企業では、先代経営者が個人名義で不動産を所有しているケースや、会社名義の不動産が実質的に個人資産のように使われているケースも珍しくありません。
こうした状況を放置すると、相続税の納税資金や後継者の経営方針との兼ね合いで、大きなトラブルに発展する可能性があります。
また、企業が保有している不動産の種類によっては、事業継続の要となる生産拠点や事務所、店舗だけでなく、単なる投資物件や遊休地、賃貸による副収入源となる物件も含まれます。
こうした多様な不動産が企業経営とどのように結びついているかを理解し、事業承継時に最適な形で引き継ぐための準備を進めることが、後継者のスムーズな船出につながるのです。
企業経営における不動産の役割

企業が所有する不動産は、単なる経営資源の一つという枠にとどまりません。自社ビルや生産拠点、倉庫などは、経営活動を下支えする重要なインフラであり、不動産の形態や立地条件、評価額などが企業の成長戦略や財務戦略に影響を及ぼします。
また、賃貸用の建物や駐車場から収益を得る仕組みを持つ企業もあり、その副収入が本業の安定運営を補完する場合もあります。
•自社ビル・工場用地の存在意義
製造業であれば、生産拠点が確保されているからこそ安定した出荷体制を維持でき、サービス業や小売業であれば、店舗や事務所の立地が売上や認知度に直結します。
不動産が企業ブランド力や雇用維持に貢献する一方、老朽化や用途変更などの課題を抱える場合もあり、事業承継時には改修費用や建て替え計画をどう扱うかも検討ポイントとなります。
•不動産担保による資金調達

企業が新しい設備投資や事業拡張を検討する際、不動産を担保に融資を受けることで、有利な条件の資金調達を実現しやすくなるケースがあります。
担保価値が高ければ、銀行から見て貸倒リスクが低いと判断されるため、より大きな金額を低金利で借り入れられる可能性があるのです。
反面、事業承継時に不動産を引き継ぐ際には、先代や会社が設定していた担保の状況をしっかりと洗い出し、後継者がどのように継承するかを明確にしておかなければなりません。
社屋・工場用地・賃貸物件など多様な形態
企業所有の不動産には、社屋・工場・店舗・倉庫・寮・社宅など、多種多様な形態が存在します。
とりわけ、日本の中小企業には先代経営者が個人で土地を所有し、法人がそれを借りている形態や、長年のうちに取得した遊休地をそのまま管理しているケースも少なくありません。
これらの不動産が事業承継時に重要となる理由としては、以下のような要素が挙げられます。
1.資産価値の算定

事業用不動産の評価額が高いほど、株価評価や相続税の課税対象額が膨らむ可能性があります。
特に都市部や商業地に立地する物件は地価が上昇しやすく、承継時に想定以上の税負担が生じることもあるでしょう。
2.実際の利用状況
事業に直接使用している不動産か、それとも投資目的や余剰資産なのかによって、承継スキームや税制特例の適用範囲が変わります。
たとえば、小規模宅地等の特例は事業用や居住用の土地が対象ですが、純粋な投資用物件には適用されないなど、詳細なルールを理解する必要があります。
3.売却の可否
後継者が経営方針を変え、遊休地や不要な建物を売却して運転資金を確保する選択肢が考えられます。
また、社屋や工場を第三者に売却した後、リースバックで賃貸契約を結ぶことでキャッシュフローを改善しつつ、事業を続ける方法もあります。
いずれにせよ、どの不動産が手放せて、どれが不可欠なのかを精査しなければ、円滑な事業承継は困難です。
後継者不足と不動産の相続問題

日本では中小企業の多くが後継者不足という深刻な課題に直面しています。これに加え、事業を承継しようという意欲的な後継者が見つかったとしても、今度は不動産相続の問題が浮上するケースが少なくありません。
具体的には、先代経営者が個人で所有する土地や建物を、法人が賃貸契約で利用している場合などで、相続発生後の賃貸契約や相続税の納税資金をどう扱うかが大きなテーマとなります。
•親族間トラブルを避けるために
後継者となる人が一人でも、親族全体の相続争いを回避するためには、遺言書の整備や生前贈与といった対策が欠かせません。
先代の名義で複数の不動産が存在する場合、相続分の調整が上手くいかずにトラブル化する事例も多く、事前のコミュニケーションや専門家の関与が重要と言えます。
•後継者の意向を尊重した物件管理
もしも工場や店舗などの事業用不動産を引き続き活用するのであれば、安易に売却はできません。
一方で、相続税や借入金の返済資金を確保する目的で、不動産を売却する必要に迫られることもあります。
後継者が考える経営方針や将来ビジョンに合わせて、どう物件を活かすか、あるいは手放すかという判断を行うのが理想です。
運転資金とのバランスをどう確保するか

事業承継には、事業継続のための経営資源と、相続税や承継費用のための資金を同時に考慮しなければなりません。
特に不動産を多く保有している企業の場合、固定資産税や維持管理費がかさむだけでなく、相続税の課税対象が大きくなることで、後継者の財務状況に深刻な影響を与えるリスクがあります。
そのため、以下のようなポイントを検討すると良いでしょう。
•不動産を部分的に売却して資金を確保
遊休地や古く使い道のない建物を整理し、その売却益を納税資金や承継に伴う費用に回す手法です。
売却のタイミングや買い手をどう見つけるか、売却益に対する譲渡所得税などを踏まえて、できるだけ早い段階から計画を立てることが重要です。
•リースバックで賃貸契約に切り替える

自社ビルや工場など、事業に不可欠な不動産を売却してしまうと、営業活動に支障が出るのではないかと心配する経営者も多いですが、リースバックを活用すれば、建物を売却しながら引き続き同じ場所で事業を行えます。
まとまったキャッシュを確保しつつ経営の継続性を担保できるため、納税資金や借入金返済などでキャッシュフローの改善が期待できるでしょう。
•複数の金融機関と融資条件を交渉する
不動産を担保として設定し、相続税や承継に必要な資金を借り入れるという手段も考えられます。
金融機関によって融資条件や金利が異なるため、複数行と交渉して最適な条件を探ることが大切です。
さらに、承継後の返済計画を後継者と共有し、無理のない財務体制を構築することで、事業継続に負担をかけない運用を目指しましょう。

このように、事業承継と不動産の扱いには多面的な検討が必要です。企業の将来ビジョンや後継者の意向、資金繰りの状況、税制上の特例の活用可能性など、あらゆる要素を総合的に見ながら、最適な判断を下すことが求められます。
特に不動産が絡むケースでは、早期の情報収集と専門家との連携が欠かせません。後継者や親族、税理士・弁護士・不動産会社といった多方面のステークホルダーが協力し合い、円滑かつ納得度の高い事業承継を実現できるよう、丁寧に準備を進めることが成功への近道となるでしょう。
事業用不動産の評価と相続税対策

引用元:マルイシ税理士法人HP
路線価と固定資産税評価額

不動産の価値を算定するうえで、路線価や固定資産税評価額が大きな指標となります。事業承継時の相続税計算や株価評価にも影響するため、これらを正しく理解しておきましょう。
•路線価とは
国税庁が公表する**「相続税評価のための土地価格」で、全国の主要な道路ごとに1㎡あたりの評価額が設定されています。
都市部や商業地などで実勢価格に近い**と言われることもありますが、実際には路線価は公示地価の80%程度ということが多いです。
•固定資産税評価額とは
地方自治体が固定資産税を算出するために独自で決めている評価額のことです。路線価とは別の基準で定められており、固定資産税や都市計画税の納税額に直結します。一般的に実勢価格の70%程度といわれますが、地域や時期によって変動があります。
和歌山市の事業地の特徴

引用元:リビング和歌山HP
和歌山市は、関西圏の主要都市とは異なり地価が比較的安定している反面、商業地や工業団地でも一部再開発の動きが出ているエリアもあります。たとえば、
•JR和歌山駅周辺や和歌山市駅周辺
商業施設やオフィスビルが集積し、交通の利便性が高いため地価がやや高めに設定される傾向があります。
•臨海部の工場用地
大規模な工業団地が存在し、一定の需要はありますが、企業の撤退や人材不足によって利用が変化する可能性もあるでしょう。
事業承継を念頭に、地域の路線価や固定資産税評価額をチェックし、今後の事業計画や税金対策を検討することが大切です。
事業承継税制の活用

事業承継税制は、後継者が非上場株式を相続・贈与して会社を継続する場合に、相続税・贈与税の納税猶予を受けられる制度です。
一定の要件を満たすことで、大幅に税負担を減らしつつ承継を進められるメリットがあります。
しかし、承継後も雇用維持や経営継続が要件となるなど、制度の使い勝手には注意が必要です。
•対象株式数や猶予割合
猶予が認められる株式数の上限や、実際の猶予割合は、改正によって変動する場合があります。最新の制度概要を調べ、要件を満たすかどうかを専門家に確認しましょう。
•親族内承継であれば更に使いやすい場合
親族内であれば後継者の選定が明確になるため、事業承継税制を利用しやすい傾向があります。
ただし、M&Aなどの手法と比較して経営改革や資金調達の選択肢が限られる場合もあり、自社に合った方法を選ぶ必要があります。
非上場株式等の納税猶予における不動産考慮

引用元:FP総合研修所HP
非上場株式の評価には、会社の純資産や利益、配当などが影響します。その中で、会社が保有する不動産の評価も純資産の一部として算入されるため、地価が高い物件を多く持つ企業ほど株式評価額が高騰し、相続税・贈与税の負担が増加するおそれがあります。事業承継税制を活用する際は、以下の点をチェックすると良いでしょう。
•不動産の用途や稼働状況
実際に事業で使っている不動産か、それとも単なる投資用・遊休資産なのかによって評価が異なってくる場合があります。
•納税猶予後のリスク
納税猶予を受けても、一定期間の雇用維持や事業継続が要件となるため、不動産を急に売却できないケースも出てきます。
将来的に物件の老朽化などが進むと、資金負担が増える可能性もあるため、長期的な経営ビジョンとの整合性を確保することが大切です。
承継スキームの種類とメリット・デメリット

親族内承継・M&A・従業員承継

事業承継には様々なスキームがあり、それぞれ不動産の扱いにも影響を及ぼします。大きく分けると、以下の3つの方法が代表的です。
1.親族内承継
子や孫など、血縁者に事業を引き継ぐ方法。事業承継税制を活用しやすく、経営理念や社風が維持しやすい反面、後継者の資質や兄弟間の遺産分割などでトラブルが起きる可能性も。
2.M&A(第三者承継)
他社や投資家、ファンドなどへ自社の株式や事業を売却する方法。後継者不足の場合でも事業継続が期待できる一方、不動産の扱いは買い手との交渉次第となる。売却による大きな資金獲得が望めるが、企業の独自性が損なわれるリスクも。
3.従業員承継
社内の役員や従業員に事業を継ぐケース。経営のノウハウが引き継がれやすいが、資金力やリーダーシップの面で課題となる場合がある。不動産を含む資産の買い取り資金をどう調達するかが最大のポイント。
不動産の評価額が承継形態に与える影響

不動産評価額が高い場合、株価評価が上昇して相続税・贈与税の負担が増えたり、M&Aの際に企業価値が大きく見積もられたりする反面、相手によっては重い負債として敬遠される可能性もあります。例えば、
•親族内承継の場合
高い不動産評価額は相続税の負担増につながるため、事前に納税資金を準備するか、小規模宅地等の特例などの節税策を検討することが重要。
•M&Aの場合
買い手企業や投資家にとって、不動産が魅力となるケースもあれば、逆に不要資産が多いと判断され、買収条件や価格の交渉が難航することもあります。
事業用資産の一部売却・リースバック

不動産保有が経営を圧迫している場合や、納税・事業再編の資金を調達したい場合には、事業用資産の一部を売却してしまう手段もあります。
ただし、社屋や工場など事業運営上欠かせない不動産は手放すわけにいかないケースが多いため、リースバックという選択肢が注目されています。
•リースバックの仕組み
企業が自社ビルや工場を不動産投資会社やリース会社に売却し、同時に賃貸契約を締結してそのまま使用を続ける方式です。
売却によって得た資金を相続税や運転資金に回しながら、業務を継続できるメリットがあります。
•注意点
リース料の負担増が経営を圧迫する恐れがあるほか、長期的には売却金額と総リース料を比較して、どちらが有利かを判断する必要があります。
また、リースバックを行う際には契約期間や契約更新条件をしっかり確認しなければ、急な退去要請を受けるリスクも排除できません。
キャッシュフロー改善策としての有用性

事業承継時に大きな課題となるのは、税金や退職金の支払いなどによるキャッシュ流出です。
リースバックによってまとまった資金を得ておけば、相続税や贈与税、銀行借入の返済などに対応できるだけでなく、新規設備投資や事業再編に資金を振り向ける余力も生まれます。
ただし、リース料の支払いが長期にわたり継続する点も含め、長期的なシミュレーションを行ったうえで意思決定することが重要です。
体的な成功事例

親族内承継で円滑に進めたケース

ある中小製造業の企業では、先代が個人名義で工場用地と社屋を所有しており、法人へは名目上の賃料で貸し出していました。
後継者となる長男が事業を引き継ぐにあたり、以下のようなステップで円滑に進めた事例があります。
1.遺言書の作成と相続税シミュレーション
先代が生前に弁護士と相談し、遺言書を作成。工場用地と社屋は長男が相続し、代わりに他の兄弟は金融資産を多めに受け取ることを合意しました。
2.小規模宅地等の特例の活用
工場用地については、事業継続用地として小規模宅地等の特例を適用し、相続税評価額が大幅に減額されました。
3.事業承継税制の検討
非上場株式も一定額あったため、事業承継税制の利用を検討。納税猶予を受けることで、実際の相続時の税負担が軽減されました。
不動産会社のアドバイスを活用

引用元:全国宅地建物取引業境界連合会HP
さらに、地元の不動産会社と連携することで、工場敷地の一部が遊休スペースであることが判明。
そこを賃貸駐車場として活用し、毎月の安定収益を確保することで、納税資金や設備更新費用の一部を捻出できました。
結果的に、親族内承継ながら兄弟間トラブルを回避し、事業継続と資産有効活用の両立に成功しています。
M&Aで事業を継続させたケース

後継者が見つからず、廃業を検討していたある老舗の卸売業者が、M&A(第三者承継)によって事業を継続させた成功事例もあります。
この企業は倉庫や配送センターとして不動産を数棟保有していたため、買い手企業側にとっては販売ルートだけでなく物流拠点も得られる点が魅力でした。
1.会社の不動産価値を再評価
M&A仲介会社の協力を得て、倉庫や配送センターの時価・収益性を細かく洗い出した結果、企業価値が想定以上に高く評価されることが判明。
2.一部の不動産は売却・リースバック
すべての不動産を保有するのは買い手側の負担が大きいと判断し、一部の倉庫を売却しリースバックで引き続き使用できる形を採用。これにより、買い手企業は初期投資額を抑えながら、物流拠点を確保できる利点を得ました。
3.オーナー家との利益調整
不動産の売却益と会社売却益によって、先代経営者(オーナー家)はまとまった資金を得ることができ、相続発生時の税金対策にも充てられました。
不動産を含む資産価値の再評価

このM&Aは、不動産を含む企業資産を改めて正しく評価したことで企業価値を向上させた好例と言えます。
もし不動産がなければ、買い手側にとっては単なる販売ルートや商品在庫の買収で終わる可能性があり、提示される買収金額が大幅に下がったかもしれません。
結果的に、この卸売業者は不動産を強みとすることによって、事業を存続できただけでなく、円満なオーナーリタイアを実現しています。
まとめ

事業承継では、後継者の選定や経営権の移転だけでなく、社屋や工場用地などの不動産をどのように扱うかが大きな課題となります。
特に、日本の中小企業では不動産を個人名義で所有していたり、遊休地があるのに気づいていないなど、経営面と資産管理面の連携が不十分なケースも多いです。
不動産評価や相続税対策を正しく行わないと、納税負担や相続人間のトラブルが生じ、企業の継続に支障が出るリスクが高まります。
一方で、リースバックやM&Aなどのスキームを活用し、不要な不動産を売却して資金を確保したり、自社ビルを魅力とする形で買い手企業を見つけたりと、不動産を上手に活かすことで事業承継を円滑に進めた成功事例も少なくありません。自社の状況や後継者の方針を踏まえ、事業承継税制や小規模宅地等の特例、路線価と固定資産税評価額の使い分けなどを丁寧に検討しながら、専門家(税理士・弁護士・不動産会社・M&Aアドバイザーなど)と連携して最適な承継プランを策定してください。そうすることで、企業の将来と大切な資産を守りつつ、円滑な承継を実現できるはずです。

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和歌山市を拠点に、不動産に関わるあらゆる悩みをサポートしているのが、株式会社和み(ハウスドゥ城北通り)です。地方創生をテーマに掲げ、空き家から相続、住み替えまで、多角的なアプローチで資産価値最大化を目指すのが大きな特徴の不動産会社です。
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